要点: 子どもが病院を怖がる主な理由は「次に何が起こるかわからない」という予測不能への不安です。受診前に絵本やごっこ遊びで「知っている状態」を作ること、「痛くないよ」は逆効果なのでリアルな言葉で伝えること、この2点が核心です。受診後の具体的なほめ言葉が次回の不安を下げます。
「病院行くよ」と言った瞬間、大泣きする。待合室でも診察室でも泣き続けて、保護者さんもぐったり——こんな経験、ありませんか。
怖がりすぎなくて大丈夫です。ちょっとした準備と声かけで、子どもの反応は変わることがあります。小児科で9年働いてきた視点から、現場で実際に使っている方法をお伝えします。
医療情報について: この記事は一般的な情報提供を目的としており、診断・治療の代替にはなりません。受診への強い不安が日常生活に影響している場合は、かかりつけの小児科に相談してください。夜間の急な相談は #8000(小児救急電話相談)へ。
子どもが病院を怖がる本当の理由——年齢別に違います
「注射が痛いから怖い」だけではありません。国立成育医療研究センターのプレパレーション指針でも言及されているように、子どもたちが最も嫌なのは「次に何が起こるかわからないこと」です。
つまり、恐怖の本質は「予測不能なことへの不安」です。これを理解すると、準備の方向が見えてきます。
年齢によって恐怖のかたちが違います
- 0〜1歳:言葉での説明はまだ難しい時期。6〜7か月頃から人見知りが始まり、知らない場所・知らない人への不安が出ます。説明より「気をそらす」ことが効果的です。
- 1〜3歳:「今」が大事で気分に左右されやすい時期。「病院=注射=痛い」というイメージが一度できると消えにくいです。ごっこ遊びを通じた理解が得意な時期です。
- 3〜6歳:想像力が発達して目に見えないものも怖がるように。同時に時間の概念が芽生え、「今は我慢する」ことができてくる年齢です。事前の説明が有効になります。
受診前にできる準備「プレパレーション」
プレパレーションとは、医療行為に対する心理的な準備をサポートすることです。難しそうに聞こえますが、家庭でも取り組めます。
絵本・ごっこ遊びで「知っている状態」を作る
子どもは「知らないこと」が怖いです。病院で何をするか事前に知っていると、それだけで安心感が生まれます。
おすすめの絵本(小児病棟でも使われる定番):
- 『ノンタンがんばるもん』(偕成社)
- 『ひとまねこざる びょういんへいく』(岩波書店)
お医者さんごっこのポイント:
- 子どもに「お医者さん役」をやってもらう(される側ではなく、する側への視点転換)
- ぬいぐるみを患者さんにして診察ごっこ
- 「チクッとするよ」「大丈夫だよ」と声かけの練習をしておく
いつ伝えるか——年齢別のタイミング
- 2〜3歳:当日か数時間前(早すぎると不安な時間が長くなります)
- 4〜6歳:1週間前〜前日
- 小学生以上:予定が決まったらなるべく早く
親の不安は子どもに伝わります
心理学で「社会的参照」と呼ばれるように、子どもは未知の場面で保護者の表情・態度を手がかりにしています。演技でもよいので、できるだけ落ち着いた態度で臨んでみてください。
まろんの臨床メモ: 小児科で働いていると「お医者さんごっこをして来ました」という保護者さんのお子さんは、診察室での緊張が明らかにやわらいでいることが多いです。聴診器を「かしてね」と自分から触りに来る子もいます。事前の準備が現場でも本当に違いを生みます。
診察室で使える声かけテクニック
ディストラクション(気そらし)の方法
処置中に別のことに注意を向けることで、痛みや緊張をやわらげる方法です。
- 視覚:光るおもちゃ、キラキラするもの
- 聴覚:お気に入りの歌を一緒に歌う
- 触覚:ぎゅっと抱っこする、手を握る
WHOの予防接種ガイドラインでも、保護者による抱っこは子どもの安心感を高める最も効果的な方法として推奨されています。座った状態での接種は、横に寝かせた状態より不安軽減効果があるというデータもあります。
痛みをやわらげるグッズ
麻酔テープ(ペンレステープ)は、リドカインを含む局所麻酔テープで、30分〜1時間前に貼っておくと針を刺す痛みをやわらげる効果があります。使用できるかどうかは受診する医療機関に事前に相談してみてください。
絶対に言ってはいけないNGワード
「痛くないよ」がダメな理由
国立成育医療研究センターも明確に指摘しています。「痛くないよ」と言われたのに実際に痛かった場合、子どもは「だまされた」と感じ、保護者や医療者への信頼が損なわれます。
代わりに使いたい言葉:
- 「チクッとするけど、すぐ終わるよ」
- 「ちょっと痛いかもしれないけど、そばにいるからね」
他のNGワード・NG行動
- 「散歩に行こう」とごまかして病院に連れて行く
- 泣いたり嫌がったりする子を叱る
- 「言うこと聞かないと注射してもらうよ」と脅す(病院=罰のイメージが植え付けられます)
- 「かわいそう」と言う(子ども自身が「自分はかわいそうな存在」と感じてしまいます)
- 無理に押さえつける(パニックが強まることがあります)
受診後の声かけで次回が変わります
具体的な行動をほめる
「えらかったね」だけでなく、具体的に何ができたかを言葉にしてあげてください。
- 「チクッてなったとき、我慢できたね」
- 「先生に口を開けて見せてあげられたね」
- 「待合室で静かに待てたね」
「泣かなかった」「怖くなかった」ではなく、「怖かったけどできた」という体験として記憶させることが次回の安心につながります。
専門家への相談目安
ほとんどの場合、受診への恐怖は成長とともに自然と落ち着いていきます。ただし、次のような場合は相談を検討してください。
- 🚨 早めに受診:病院のことを考えただけで強い身体症状(嘔吐・腹痛など)が繰り返し出る、過去の医療体験がトラウマになっている様子がある
- ⚠️ 次回健診・診察時に相談:日常生活にも影響が出るほどの強い不安がある
- 📅 様子を見てよい:病院では泣くが終わった後はケロッとしている(年齢相応の反応)、事前準備で少しずつ改善が見られる
最近は「チャイルドライフスペシャリスト」という専門職がいる医療機関も増えています。強い不安が続く場合は、かかりつけの小児科で紹介してもらうことも選択肢です。
よくある質問
注射の前に麻酔テープを使いたいのですが、どう頼めばいいですか?
受診する医療機関に事前に電話で「麻酔テープ(ペンレステープ)を使えますか?」と確認してみてください。対応できる医療機関では、接種30分〜1時間前に来院して貼付してもらう手順を案内してもらえます。
採血や処置でどうしても押さえつけないといけない場合はどうすれば?
どうしても必要な処置の場合、安全に行うための保定(体を支えること)はやむを得ないことがあります。その場合も「痛かったね、頑張ったね」と受け止める声かけを処置の後すぐに行うことが大切です。
何度受診しても慣れないのはなぜですか?
子どもにとって医療処置は毎回「未知の体験」として記憶されやすいです。受診ごとに絵本やごっこ遊びで「予習」をして「知っている状態」を作ることが、慣れていくための近道です。
「病院でいい子にしていたらご褒美をあげる」はいいですか?
ご褒美は動機づけになることがありますが、「いい子=泣かない子」というイメージにならないよう注意してください。泣いても頑張った事実をほめることの方が、長期的には自信につながります。
子どもが病院を怖がるのは、不安に対する自然な反応です。準備と言葉がけで少しずつ変わっていきます。困ったときは一人で抱え込まず、かかりつけの小児科や保健師に相談してください。
参考文献
- 国立成育医療研究センター「プレパレーション」についての情報(専門機関)
- WHO “Reducing pain at the time of vaccination” — WHOワクチン接種時の疼痛管理ガイドライン(国際機関ガイドライン)
- 日本小児科学会(学会公式)
- Harrison D, et al. “Effectiveness of sweet solutions for analgesia in infants between 1 and 12 months of age: a systematic review.” Archives of Disease in Childhood, 2010.(乳児の疼痛緩和に関するシステマティックレビュー)


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