「母乳、ちゃんと出るのかな…」「赤ちゃんがうまく吸ってくれない」「母乳が足りているか不安…」
出産を控えたプレママさんや、産後間もない新米ママさんにとって、母乳育児への不安は尽きないですよね。私も小児科看護師として多くのママたちの相談を受けてきましたが、母乳育児に悩むママは本当に多いんです。
でも安心してください。母乳育児は「コツ」さえつかめば、多くの方が軌道に乗せることができます。この記事では、WHO(世界保健機関)や厚生労働省のガイドラインに基づいた、科学的に正しい母乳育児の始め方をお伝えしますね。
この記事でわかること
- 母乳が作られる仕組みと「初乳」の大切さ
- 母乳育児を軌道に乗せる3つのポイント
- 正しいラッチオン(吸着)と授乳姿勢のコツ
- 母乳量を増やすための具体的な方法
- 乳頭トラブルへの対処法と受診の目安
母乳が出る仕組みを知ろう
母乳育児を成功させるためには、まず「母乳がどうやって作られるのか」を理解しておくことが大切です。仕組みがわかると、「なぜ頻回授乳が大事なのか」「なぜ夜間授乳をがんばったほうがいいのか」が納得できますよ。
妊娠中から準備は始まっている
実は、母乳を作る準備は妊娠中からすでに始まっています。ただ、胎盤から出るホルモンが母乳の分泌を抑えているため、妊娠中は本格的に母乳が出ることはありません。
出産で胎盤が出ると、この抑制が解除されて「プロラクチン」という母乳を「作る」ホルモンの分泌が本格的にスタートします。同時に、赤ちゃんがおっぱいを吸う刺激によって「オキシトシン」という母乳を「出す」ホルモンが分泌され、母乳が出てくるようになるんです。
「初乳」は赤ちゃんへの最初のプレゼント
産後数日間に出る黄色っぽい母乳を「初乳(しょにゅう)」といいます。量は少ないのですが、免疫成分がとても豊富に含まれていて、赤ちゃんの感染症予防に大きな役割を果たします。
「量が少ないから足りないのでは…」と心配になるママも多いのですが、生まれたばかりの赤ちゃんの胃はビー玉くらいの大きさ。初乳の量で十分なことがほとんどです。産後10日目頃には白っぽい「成乳」に変わり、量も増えてきますよ。
「出した分だけ作られる」がポイント
産後10日目以降は、「乳房から出た量だけ新たに作られる」という仕組みに変わります。つまり、頻繁に授乳して乳房を「空」にすることが、母乳分泌を増やす最も効果的な方法なんです。
これが「頻回授乳が大切」と言われる理由です。授乳の間隔が空きすぎると、体が「そんなに作らなくていいんだな」と判断して、分泌量が減ってしまうことがあります。
母乳育児を軌道に乗せる3つのポイント
WHO/UNICEFと厚生労働省のガイドラインが共通して推奨している、母乳育児成功のための重要なポイントをお伝えしますね。
ポイント1:産後できるだけ早く授乳を始める
WHO/UNICEFは「産後1時間以内に母乳育児を開始すること」を推奨しています。厚生労働省の「授乳・離乳の支援ガイド」でも、出産後できるだけ早く母子がふれあって母乳を飲めるよう支援することが大切とされています。
産後すぐに赤ちゃんを胸の上に抱っこする「早期母子接触(カンガルーケア)」には、たくさんのメリットがあります。
赤ちゃんへの効果:呼吸や心拍の安定、体温の保持、血糖の安定化など
ママへの効果:初回授乳の成功率アップ、オキシトシン分泌による愛着形成、産後うつリスクの軽減など
出産する産院が「母子同室」や「早期母子接触」に対応しているか、事前に確認しておくといいですね。
ポイント2:赤ちゃんが欲しがるときに欲しがるだけ授乳する
産後早期は「1日8回以上の授乳」が目安です。授乳間隔は3時間以内を目安にしましょう。
「3時間ごと」と決めるのではなく、赤ちゃんが欲しがるサインを見せたら授乳する「自律授乳」がおすすめです。赤ちゃんが欲しがるサインには、口をパクパクする、手を口に持っていく、頭を左右に振る、などがあります。泣くのは「お腹すいた!」の最終サインなので、できればその前に気づいてあげられるといいですね。
ポイント3:夜間授乳を大切にする
「夜くらいはゆっくり寝たい…」という気持ち、よくわかります。でも、夜間はプロラクチン(母乳を作るホルモン)が最も分泌されやすい時間帯なんです。
特に産後0〜2ヶ月は母乳育児を確立させる大切な時期。夜間授乳を続けることで母乳分泌量を維持・増加させることができます。プロラクチンにはママをリラックスさせて眠気を誘う作用もあるので、授乳後は比較的スムーズに眠れることが多いですよ。
正しいラッチオンと授乳姿勢のコツ
母乳育児で最も大切な技術が「ラッチオン(吸着)」です。赤ちゃんが乳頭だけを吸っていると、母乳はあまり出ませんし、乳頭も傷つきやすくなります。
深い吸着ができているかチェック
正しくラッチオンできているかは、次の4つのサインで確認できます。
- 痛くない(または最初だけで痛みがおさまる)
- 赤ちゃんの口が大きく開いている(アヒル口になっている)
- 下あごが乳房についていて、鼻で呼吸できている
- 「コクッコクッ」という飲み込む音が聞こえる(「チュッチュッ」という吸いつき音ではなく)
ラッチオンのコツ
- 乳房を大きなハンバーガーをつぶして食べるように持つ(Cホールド)
- 赤ちゃんの鼻が乳頭の高さになるように抱く
- 赤ちゃんが口を大きく開けるのを待つ
- 開いた瞬間に、乳輪部まで深くふくませる
- 赤ちゃんの体がねじれていないか確認(耳・肩・腰が一直線に)
おすすめの授乳姿勢
交差横抱き(クロスクレードル):新生児や吸い付きにくい赤ちゃんに最適。頭をしっかり固定できるので深くくわえさせやすい姿勢です。
フットボール抱き:帝王切開後や乳房のボリュームがある方におすすめ。赤ちゃんの口がよく見えるので吸着状態を確認しやすいです。
添い乳:夜間授乳や体調不良時に便利。ただし、赤ちゃんの鼻がふさがれていないか注意し、ママが眠り込まないよう気をつけてくださいね。
同じ姿勢だけで授乳を続けると乳腺炎のリスクが高まることがあるので、複数の姿勢をバランスよく取り入れるのがおすすめです。
母乳量を増やすためにできること
頻回授乳が基本
母乳量を増やす最も効果的な方法は、やはり頻回授乳です。「出ないから飲ませない」ではなく、「出なくても吸わせる」ことで刺激を与え続けることが大切です。
水分と栄養をしっかり摂る
母乳は血液から作られるため、ママの水分摂取は重要です。1日1.5〜2リットルを目安に、こまめに水分を摂りましょう。冷たい飲み物より、常温か温かい飲み物がおすすめです。
貧血予防のために、鉄分を意識した食事も大切です。レバー、赤身肉、小松菜、ほうれん草などを積極的に取り入れてみてくださいね。
休息とリラックス
疲れやストレスは母乳分泌に影響することがあります。赤ちゃんが寝ているときは一緒に休む、家事は手を抜く、周囲のサポートを積極的に受けるなど、ママ自身の心と体を大切にしてくださいね。
よくあるトラブルと家庭でできる対処法
乳頭の痛み・亀裂
母乳育児で最もよくあるトラブルです。主な原因は浅い吸着。正しいラッチオンを意識することが予防の基本です。
家庭でできるケア:
- ワセリンや馬油などの保湿剤を塗り、小さく切ったラップで覆う(ラップパック法)
- 母乳自体にも保護・殺菌効果があるので、乳頭に塗るのも有効
- 傷のある側と反対側から先に授乳する
- 傷が赤ちゃんの口角に来るように抱き方を変える
やってはいけないこと:
- 石鹸でゴシゴシ洗う(乾燥を招きます)
- 傷があるのに無理して直接授乳を続ける(悪化の原因に)
乳房の張り・しこり
産後2〜4日目頃に乳房がパンパンに張ることがありますが、これは生理的な現象で、通常1週間以内に落ち着きます。
家庭でできるケア:
- 頻回授乳を続ける
- 張っている側から授乳する
- しこり部分を乳頭方向へ軽く圧迫しながら授乳
- 授乳前に温かいタオルで乳房を温める
- 授乳後に冷やす(冷却ジェルシートなど)
「母乳が足りているか」の判断方法
「母乳が足りているかわからない」という不安は、約40%のママが抱えていると言われています。以下のサインを参考にしてくださいね。
足りているサイン:
- 体重が順調に増えている(生後1〜3ヶ月は1日25〜30g程度が目安)
- おしっこが1日6〜8回以上出ている
- 赤ちゃんに活気があり、肌に弾力がある
- 授乳後に満足そうにしている
「赤ちゃんが泣く=母乳不足」とは限りません。暑い・寒い、眠い、抱っこしてほしいなど、泣く理由はさまざまです。体重増加とおしっこの回数を目安にしてくださいね。
こんなときは専門家に相談を
母乳外来・助産師に相談したほうがよい場合
- 乳頭の痛みが1週間以上続く
- 赤ちゃんがうまく吸い付けない、吸着が続かない
- 母乳量に不安がある
- 乳房にしこり・痛みがあるが発熱はない
- 赤ちゃんの体重増加が1日15g以下が続く
【当日中に受診】医療機関を受診したほうがよい場合
- 38.5℃以上の発熱と乳房の痛み・発赤がある(乳腺炎の可能性)
- 悪寒、関節痛、頭痛など全身症状がある
- セルフケアで24時間経っても発熱が下がらない
【今すぐ受診】緊急性が高い場合
- 乳房の一部が暗紫色に変色している
- 膿のような分泌物が出る
- 赤ちゃんに脱水症状がある(6時間以上おしっこが出ない、泣いても涙が出ない、ぐったりしているなど)
出産前にできる準備
乳頭マッサージは必要?
「乳頭マッサージをしないと母乳が出ない」ということはありません。ただし、陥没乳頭や扁平乳頭の方は、事前のケアが有効な場合もあります。
行う場合は妊娠37週以降、医師の許可を得てから始めましょう。乳頭刺激は子宮収縮を引き起こす可能性があるため、切迫早産の方や帝王切開予定の方は控えてくださいね。
知識を得ておくことが一番の準備
出産前にできる最も大切な準備は、母乳育児に関する正しい知識を得ておくことです。自治体の母親学級や産院の両親学級に参加したり、この記事のような信頼できる情報を読んでおくだけでも、産後の不安は軽減されますよ。
ミルクも大切な選択肢です
ここまで母乳育児のコツをお伝えしてきましたが、ミルク(人工乳)も赤ちゃんにとって大切な栄養源であることを忘れないでくださいね。
母乳が思うように出ない場合、ママの体調や仕事復帰の事情がある場合、医学的な理由がある場合など、ミルクを使う選択はまったく問題ありません。大切なのは、ママと赤ちゃんが笑顔で過ごせることです。
「母乳でなければ」と自分を追い詰めず、必要に応じてミルクを上手に活用してくださいね。迷ったときは、助産師さんや小児科医に相談すると安心ですよ。
まとめ
- 産後できるだけ早く、1日8回以上の頻回授乳が母乳育児成功のカギ
- 正しいラッチオン(深い吸着)で乳頭トラブルを予防
- 夜間授乳は母乳分泌を増やす「ゴールデンタイム」
- 「足りているか」は体重増加とおしっこの回数で判断
- 困ったときは早めに母乳外来や助産師に相談を
母乳育児は、最初からうまくいく人ばかりではありません。私も小児科で働いていて、たくさんのママたちが試行錯誤しながら母乳育児を軌道に乗せていく姿を見てきました。
一人で抱え込まず、困ったときは遠慮なく専門家を頼ってくださいね。あなたとお子さんにとって、心地よい授乳の形が見つかることを願っています。
📚 参考文献・引用元
- 1.WHO/UNICEF 母乳育児成功のための10ヵ条(2018年改訂版) [ガイドライン] エビデンス: 高(国際ガイドライン)
- 2.厚生労働省 授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版) [公式情報] エビデンス: 高(政府ガイドライン)
- 3.厚生労働省 平成27年度乳幼児栄養調査結果 [公式情報] エビデンス: 高(政府統計)
- 4.日本小児科学会 母乳育児の推進について [ガイドライン] エビデンス: 高(学会見解)
⚠️ ご注意(免責事項)
- 本記事は情報提供を目的としており、医師の診断・治療の代替となるものではありません。
- お子さまやママの状態には個人差があります。気になる症状がある場合は、必ず医療機関や助産師にご相談ください。
- 記事内の情報は執筆時点のものであり、最新のガイドラインと異なる場合があります。


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