「ちょっと目を離したすきに、子どもが何か口に入れている…!」そんなヒヤッとした経験、ありませんか?
子どもの誤飲事故は、親御さんがそばにいても、ほんの数秒で起こってしまうもの。「まさかうちの子が」と思っていても、好奇心旺盛な時期のお子さんにとっては、身の回りのものすべてが「興味の対象」なんですよね。
この記事では、小児科看護師として7年間現場で多くの誤飲ケースを見てきた私まろんが、誤飲を防ぐための危険物チェックリストと、万が一の対処法をわかりやすくお伝えします。
この記事でわかること
- 子どもが誤飲しやすい年齢と、誤飲が起こる理由
- 家庭に潜む「危険物」場所別チェックリスト
- 誤飲したときの正しい対処法(吐かせる?吐かせない?)
- 今すぐ受診が必要な症状の見分け方
- いざというときの相談先(中毒110番・#8000)
子どもの誤飲はなぜ起こる?知っておきたい基本知識
誤飲しやすい年齢は?
子どもの誤飲事故は生後7〜8か月頃から急増し、3〜4歳頃までよく見られます。特に生後10か月くらいになると、手にしたものを何でも口に運ぶようになります。これは赤ちゃんが順調に成長している証なのですが、同時に誤飲の危険性も高まる時期なんです。
5〜6か月頃の赤ちゃんは、口に入れられる大きさのものがすべて「食べ物」ではないということがまだ理解できません。また、食べ物を飲み込むときに気管のふたが閉じる機能も未発達なので、誤って気管に入ってしまう「誤嚥(ごえん)」のリスクも高いのです。
誤飲の原因となりやすいものは?
厚生労働省の調査によると、子どもの誤飲で多いのは以下のものです。
- タバコ・加熱式タバコ
- 医薬品・サプリメント
- ボタン電池
- 硬貨・おもちゃの部品
- 洗剤・化粧品
- 磁石(マグネットボールなど)
特に近年は、医薬品の誤飲がタバコを抜いて報告件数1位になったというデータもあります。お薬の管理には特に注意が必要ですね。
「口に入る大きさ」の目安
親指と人差し指で作る輪(直径約39mm)に入る大きさのものは、子どもの口に入ります。この大きさを目安に、お子さんの手の届く範囲をチェックしてみてください。
【場所別】家庭の危険物チェックリスト
「うちは大丈夫」と思っていても、意外なところに危険が潜んでいることがあります。場所ごとにチェックしてみましょう。
リビング・居間
- □ リモコンの電池カバーはしっかり閉まっている?
- □ テーブルの上にタバコ・灰皿を置いていない?
- □ 大人の薬をテーブルや棚に出しっぱなしにしていない?
- □ 小さなおもちゃ(ビーズ、ブロックの部品など)が落ちていない?
- □ マグネットボールやマグネットパズルは手の届かない場所にある?
- □ 冷蔵庫の磁石は外れかけていない?
キッチン
- □ 洗剤類は高い場所または鍵付きの棚に収納している?
- □ 漂白剤・カビ取り剤は子どもの手が届かない場所にある?
- □ 乾燥剤(お菓子の袋に入っているもの)を放置していない?
- □ アルコール飲料は見えない場所に保管している?
- □ ペットボトルや缶を灰皿代わりにしていない?
洗面所・浴室
- □ 化粧品・マニキュア・除光液は手の届かない場所にある?
- □ シャンプー・ボディソープは床に置きっぱなしにしていない?
- □ 入浴剤を子どもの手の届く場所に置いていない?
- □ 体温計(特に古い水銀タイプ)の保管場所は安全?
寝室・子ども部屋
- □ ボタン電池を使う時計・LEDライトの電池カバーは固定されている?
- □ コイン・アクセサリーなど小さなものが床に落ちていない?
- □ 上の子のおもちゃ(小さな部品があるもの)を下の子が触れる場所に置いていない?
- □ 磁石の付いた絵本やおもちゃは破損していない?
玄関・ガレージ
- □ 灯油・ガソリンは専用容器で、鍵のかかる場所に保管している?
- □ 殺虫剤・防虫剤は高い場所に収納している?
- □ 靴用の乾燥剤・消臭剤を出しっぱなしにしていない?
【要注意】特に危険な誤飲物と対処法
誤飲したものによって、対処法は大きく異なります。「吐かせるべきもの」と「絶対に吐かせてはいけないもの」があるので、正しく理解しておくことが大切です。
【最重要】ボタン電池の誤飲
ボタン電池の誤飲は一刻を争う緊急事態です。
ボタン電池が消化管に接触すると、電流が流れて電気分解が起こり、電池の外側にアルカリ性の液体が発生します。この液体はタンパク質を溶かす性質があり、わずか20〜30分で消化管に損傷を起こすことがあります。
特にコイン型のリチウム電池は放電電圧が高く、食道に引っかかりやすいため、より危険です。過去には食道や気管に穴が開いた事例も報告されています。
【対処法】
- 何も飲ませない・吐かせない
- 直ちに医療機関を受診
- 「ボタン電池を飲んだかもしれない」場合でも必ず受診
タバコ・加熱式タバコの誤飲
タバコに含まれるニコチンは非常に毒性が強く、子どもでは10〜20mgで致死量に達することがあります。
特に危険なのは「タバコを浸した液体」です。空き缶やペットボトルを灰皿代わりにしていると、ニコチンが水に溶け出し、それを飲んでしまうと急速に吸収されて重篤な中毒を起こす可能性があります。
加熱式タバコは紙巻きタバコより小さく、子どもが丸ごと口に入れやすいサイズです。また、金属片が内蔵されている製品もあり、別の危険もあります。
【対処法】
- 水や牛乳を飲ませない(ニコチンの吸収が早まる)
- 口の中に残っていれば拭き取る
- 2cm以上食べた場合、または量がわからない場合は医療機関を受診
- タバコを浸した液体を飲んだ場合は直ちに救急車を呼ぶ
磁石(マグネットボール・マグネットパズル)の誤飲
小さな磁石を複数個飲み込んでしまった場合、または磁石と金属を一緒に飲み込んだ場合は非常に危険です。
磁石同士が消化管の壁を挟んで引き合い、その部分の血流が止まって壊死を起こしたり、腸に穴が開いたりすることがあります。開腹手術が必要になるケースも多く報告されています。
【対処法】
- 複数個の磁石を飲み込んだ可能性がある場合は直ちに医療機関を受診
- 症状がすぐに現れないこともあるので、疑いがあれば必ず受診
- 商品やパッケージを持参し、どんな磁石か伝える
【絶対に吐かせてはいけないもの】
以下のものを誤飲した場合、絶対に吐かせてはいけません。吐かせることで、かえって危険が増します。
- 灯油・ガソリン・シンナー・除光液など揮発性のもの→吐かせると気管に入り、化学性肺炎を起こす危険
- 漂白剤・カビ取り剤など強い酸・アルカリ性のもの→吐くときに食道を再度傷つける危険
- ボタン電池→吐かせようとする時間がもったいない、即受診が必要
- 尖ったもの・とがったもの→消化管を傷つける危険
これらを飲み込んだ場合は、何も飲ませず、吐かせずに、すぐに医療機関を受診してください。
様子を見てよいもの・軽症で済むことが多いもの
以下のものは、少量であれば様子を見てよい場合が多いです。ただし、お子さんの様子がいつもと違う場合は医療機関に相談してください。
- クレヨン・色鉛筆の芯(少量)
- インク(ボールペン・マジックなど、少量)
- 石けん(少量なめた程度)
- シリカゲル(乾燥剤、「食べられません」と書いてある透明の粒)
- 紙類(少量)
窒息!のどに詰まらせたときの対処法
誤飲とは別に、食べ物やおもちゃがのどに詰まって窒息を起こすケースがあります。窒息は数分で命に関わる緊急事態ですので、対処法を知っておくことが大切です。
窒息のサイン
- 突然声が出なくなった
- 首を押さえて苦しそうにしている
- 唇や顔色が紫色(チアノーゼ)になっている
- 咳をしようとしているが、出ない
1歳未満の乳児の場合
「背部叩打法」と「胸部突き上げ法」を交互に行います。
【背部叩打法】
- 赤ちゃんをうつ伏せにして、腕の上に乗せる
- 手のひらで顎をしっかり支え、頭を体より低くする
- 肩甲骨の間を手のひらの付け根で5回、強く叩く
【胸部突き上げ法】
- 赤ちゃんを仰向けにひっくり返す
- 胸の中央(左右の乳頭を結んだ線の少し下)を指2本で5回圧迫
これを異物が取れるか、意識がなくなるまで交互に繰り返します。意識がなくなったら、すぐに119番通報し、心肺蘇生を開始してください。
1歳以上の幼児の場合
「腹部突き上げ法(ハイムリック法)」を行います。
- 子どもの後ろから両腕を回す
- みぞおちの下で片方の手を握りこぶしにする
- もう一方の手で握りこぶしを包み、上方へ圧迫する
※注意:1歳未満の乳児には腹部突き上げ法を行ってはいけません(内臓を損傷する危険があります)。
こんなときはすぐに受診を!
誤飲・誤嚥が起きたとき、どの程度で受診すべきか迷うことも多いと思います。以下を目安にしてください。
【今すぐ救急車を呼ぶ(119番)】
- 意識がない、ぐったりしている
- 呼吸が苦しそう、呼吸をしていない
- 唇や顔色が青紫色(チアノーゼ)
- けいれんを起こしている
- タバコを浸した液体を飲んだ
- 灯油・ガソリンなど揮発性のものを大量に飲んだ
- 強い酸・アルカリ性のものを飲んだ(漂白剤など)
【すぐに医療機関を受診】
- ボタン電池を飲んだ(疑いも含む)
- 磁石を複数個飲んだ
- タバコを2cm以上食べた、または量がわからない
- 医薬品を飲んだ
- 尖ったものを飲み込んだ
- 嘔吐を繰り返している
- 顔色が悪い、元気がない
【様子を見て、心配なら受診】
- 少量の石けん・シャンプーをなめた
- クレヨン・色鉛筆を少しかじった
- シリカゲル(乾燥剤)を少し口に入れた
- 紙を少量飲み込んだ
判断に迷ったときは、無理に自己判断せず、後述の相談窓口に電話してみてください。
いざというときの相談先
誤飲が起きたとき、すぐに相談できる窓口を携帯電話に登録しておくと安心です。
中毒110番(日本中毒情報センター)
- 大阪中毒110番:072-727-2499(365日・24時間対応)
- つくば中毒110番:029-852-9999(365日・9時〜21時対応)
- タバコ専用電話:072-726-9922(365日・24時間対応、テープによる情報提供)
誤飲したものの成分や対処法について、専門的なアドバイスを受けることができます。情報提供料は無料です。
小児救急電話相談(#8000)
全国共通の短縮番号#8000をプッシュすると、お住まいの都道府県の相談窓口につながります。小児科医師・看護師に電話で相談でき、受診の必要性や適切な対処法についてアドバイスを受けられます。
※対応時間は都道府県によって異なります
まとめ
- 子どもの誤飲は生後7〜8か月から急増。親指と人差し指で作る輪に入る大きさのものはすべて誤飲の危険がある
- ボタン電池・タバコ・磁石の誤飲は特に危険。ボタン電池は時間との勝負なので即受診を
- 灯油・漂白剤・ボタン電池などは「吐かせてはいけない」ことを覚えておく
- 窒息時は乳児には背部叩打法+胸部突き上げ法、幼児には腹部突き上げ法を行う
- 判断に迷ったら中毒110番(072-727-2499)や#8000に相談を
誤飲事故は、どんなに気をつけていても起こりうるものです。大切なのは「起こさない環境づくり」と「起きたときに正しく対処できる知識」の両方を持っておくこと。
この記事を保存しておいて、いざというときの参考にしていただければ幸いです。心配なときや迷ったときは、一人で抱え込まず、遠慮なく医療機関や相談窓口に連絡してくださいね。

コメント